みちべぇの道

道だとか橋だとかが好きで、走ったり歩いたり道に迷ったり

嵐の山小屋で②

(つづきです)

 

またまた、逆上したアスパラ氏が、怒鳴りながらこちらにやって来た。

私、恐怖と怒りで過呼吸を起こしそうになる。

でも、夫だけを危険にさらすわけにはいかない。

助太刀致す。

毅然と起き上がり、「やめてください」と小さい声で言った。

夫がライトを点けて、アスパラ氏の顔を照らした。

げっ、そんな、また相手を刺激するようなことをして、とドキドキしていたら

アスパラ氏、目をパチクリし

そして、

「あ、ごめんなさい」普通の声で謝った。

へ?

「ごめんなさい、酔っぱらっちゃって」再度、謝罪のお言葉。ちょっと苦笑いしながら。

 

すぐに管理人さんを呼びに行き、有無を言わせずアスパラ氏は管理人さんの部屋で寝てもらうことになった。

おとなしく部屋を出ていくアスパラ氏。

あの怒声はなんだったんだ? 急に正気に戻ったのか

暗闇で何かと戦っていたのかなぁ

迷惑千万なことで、同情はしないけど

普段から不満とかストレスとか鬱屈が溜まっていたのだろうな。

人間はどうして苦しむようにできているんだろう。

 

うだうだと考えながらも、静かになった部屋で少し眠ることができた。

 

〇〇〇〇〇

 

朝、真っ白な雲の中の山小屋を後にし、下山。

山を下りながら、夫と昨夜のことを話した。

 

私、重苦しい雰囲気を少し軽くしようと思い

「山男さん 格好良かったよねぇ。優しい声で諭してしたよね」

夫「ん?(何のこと?という感じ)」

私「ほら、『山をやる奴は、こんなことしちゃダメだ』って。ちょっと感動したよ。聞いてなかったの?」 

夫「・・・・それ言ったの私だよ」

え? えぇぇぇぇっ!!!

 

確かに、息だけで話しているような密かな囁き声だったが、夫の声を聞き間違えていた妻(私)(;^ω^) 私にはあんなに優しい声を出したことないぞ。「お前」呼ばわりもされたことないけど。

あのとき、声は少し離れたところから聞こえた。

わざわざ空き布団を乗り越えて、アスパラ氏の布団の横で説教してたのね。

そして、説教の挙句、「ふざけんな!」と、つかみかかられたらしい。

夫「ちょっと締め上げた」って、どこを?( ゚Д゚) 怖っ。夫はそういう人だったの?

 

でも、あの人 ナイフ持ってたかも、だよ

夫「うん、私もそう思ったけど、大丈夫かなって」

大丈夫じゃないよ!

声が震えた。

 

じゃあ、山男の人は?

「ずっと寝てたみたいね」

ある意味豪胆だ。

 

ねぇ

あんなに好青年風な人が、あんなに狂暴になったり

長年付き合っていた夫の知らない顔が見えたり

人とは解らぬものよのぉ

 

それにしても管理人さん!

深夜に、苦情を言いに行き、

「女の人は怖がっているから別の部屋に移ってもらうか、酔った本人を管理人室で寝かせるかしてほしい」

と、お願いしたところ

「空いている部屋はないし、今、落ち着いて眠っているのならそのままにしたほうがいい」と却下されたそうな。

言いたいことはわかるけど、ちょっとモヤモヤ。

 

話しながら山道を下りていくと、下から大きな荷物を背負って登ってくる女性と目が合った。鹿みたいなきれいな目をしている。

その人が話しかけてきた

「昨日は、山小屋に泊まられたのですか」

「そうです」

「ああ、すみません。ご迷惑をおかけして」

あ、管理人さんの奥さんだ。連絡を受けて戻ってきたんだろうか

私たちに謝るために朝から登ってきた?

「まったく、お客様がゆったり過ごせるように、定員を30人から15人したっていうのに。和気あいあいはいいけど、お酒飲み過ぎて 暴言はダメよね。ほんとにすみません。帰ったらうんとお説教します。」心から申し訳ないと思っていることが伝わってきた。お客さんと山小屋をとても大切にしているんだな。

 

そっか、泊り客をしっかり管理して、常連さんがタガを外さないように睨みをきかせて(;^ω^)いるのは、管理人(妻)さんだったんだ。昨日は、たまたま妻さんが不在だったから、あんなことが起きてしまったのね。

妙に納得し、モヤモヤがかなり晴れた。

この人がいればあの山小屋は大丈夫だな。

「お会いできてよかったです」

ほんと、駒の小屋の良心のような人と会えて良かった。

 

もう、あの山小屋には行かない、と思っていたけれど

管理人(妻)さんがいる山小屋がどんな感じか見てみたい気もする。

いろいろあったけど、終わりよければ、だな。

なんだかんだで面白かった会津駒ヶ岳でした。