旅の必需品に「本」がある
列車の中で文庫本を読み、時々窓の外を流れる景色を眺め、眠くなったらうたた寝をし、目が覚めてまた本を読む。楽しく心安らぐ時間が流れる。
歩き疲れて立ち寄った喫茶店で、コーヒーを前に読書するのもいい。
夜、眠る前に本を開けば、昼間の出来事でとっ散らかった脳がスッと落ち着き、穏やかな眠りに入っていける。
本は旅する私にとって必要不可欠なパートナーだ。
なんちゃって(笑)
単に本が好きだっていう話なんですけどね
好きだけど、読むスピードは遅いので、旅に持っていく本はそれほど厚くない文庫本が一冊あれば充分だ。
ということで、岡山に連れていく本を探しに図書館に行った。(私も本は借りる派です(笑))
図書館内を徘徊していると、一冊の本に呼ばれた。
角田光代「さがしもの」
本をテーマにした短編集のようだ。
角田光代は、この本の中で言っている
呼ばれたので、旅の友になってもらうことにした (^.^)。
津山から家に帰る夜の電車、5回乗り換え7時間かかったが
車中本を読み続け、家の最寄り駅に着くころ読み終わった。
感動したとか涙したとかいう内容ではないが、その日の私にはちょうどよく寄り添ってくれ、長旅ではあったが快適な時間を過ごすことができた。
本文に関してはそんな感じだったが、最後の「あとがきエッセイ 交際履歴」を読んでドキドキした。
著者と本との関係を綴ったものだ。ひどく共感した。
赤枠の中は、本からの引用です。
保育園に通っていた私は、ほかの子どもよりずいぶんと未発達で、うまく話せず、うまく遊べず---中略---休み時間はたいへんに苦痛だった。
苦痛から逃れるために本ばかり読んでいた。
そうして実際、本は苦痛をすっぱりと取り去ってくれた。
本は開きさえすれば、即座に読み手の手を取って別世界へと連れていってくれる。たったひとりの時間、保育園にいながらにして、別世界へと連れていってもらうのは、ほんとうにありがたいことだった。友だちがいないとか、みんなのできることがなぜできないとか、その別世界では忘れることができる、いや、その世界ではそんなことはそももそまったく関係がないのである。
角田光代は保育園のときもう本を読んでいたんだ、早熟だな
という話ではなく(笑)
私も、小学生の頃から「みんなのできることがなぜできない」子供だった。鉄棒で逆上がりができず、跳び箱は跳べず、泳げず、自転車に乗ることができず、シーソーから落ちて肉離れをし、ブランコに乗っても「ここで手を離したらどうなるんだろう」と考えて実際に手を放して落ちてアタマを打ち(おばか)、どんくさいので男子からバカにされ軽んじられ、自己嫌悪に陥るのだった。
そんな劣等感を常に抱えていても、本を開けばそこには別の世界があった。ほんとうに助かった。
小説との最初の出会いは、小学二年か三年のときに読んだ、江戸川乱歩の「緑衣の鬼」だった思う。少年探偵モノ。
面白くてびっくりした。
本って面白いと知った少女(^^♪は、他の少年探偵シリーズを探して読みふけり、そのうち推理小説を越えて学校の図書室の本を次から次へと読み、更に本にハマっていった。
間違いなく現実逃避していた。
しかし現実逃避のどこが悪い?と思う。現実逃避しなければ生きられない人間は、どんどん現実逃避すればいいのだ。本を読むことで誰かに迷惑がかかるわけでもない。
現実逃避の手段でもあった読書は、それ自体が楽しく面白く、私をへなちょこなりに育て、少しだけではあるが人生を豊かにしてくれるものでもあった。
一回本の世界にひっぱりこまれる興奮を感じてしまった人間は、一生本を読む続けると思う。
高校生の時、夜、部屋で本を読んでいるとやめられず、深夜になってしまうことがよくあった。
早寝の父が夜中にトイレに起き、私の部屋の電灯がついているのを見ると入口の障子を開け「早く寝ろ」という。その頃私は反抗期でもあったので無視して読み続けると、父は私の部屋に入ってきて「電気の無駄だ」と電灯を消して出ていく。
押し入れの中にスタンドを持ち込んで読んだこともあったが、これも常習犯になるとバレて怒られる。
私は、深夜にこっそり家を抜け出し、5分ほど歩いたところにある只見線の無人駅に行き、蜘蛛の巣のかかる電灯の下で本を読んだ。
そんな風にして読んだ太宰治が、遠藤周作が、北杜夫が、小峰元が、筒井康隆が、村上春樹が、アガサクリスティーが、八木重吉が、今の私を形作っているのかもしれない。
かなり偏ったいびつな形ではあるが。
以前、インターネットを見ていたら、目に飛び込んできた言葉があった。
本があるからもう大丈夫
うん、そうだね。もう大丈夫だ、本と出合えてよかった。
しみじみと嬉しかった。
本があるから、私でも楽しく生きていける。
「さがしもの」を読み、自分自身の本に関するいろいろを思い出した。
過去に心揺さぶられた本をもう一度読み返してみようと思った。
これから出会うであろう傑作を思いわくわくしてみた。
これからも図書館で、書店で、どんな本が私を呼んでくれるか
楽しみだ。