みちべぇの道

道だとか橋だとかが好きで、走ったり歩いたり道に迷ったり

マムシ捕り名人の話

私は、トンビにパンをさらわれるようなマヌケだが、私の祖母は猛毒を持つ蛇、マムシを生け捕りする人だった、という話をしようと思う。

 

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私は、新潟の山間にある村落で生まれ、子供時代を過ごした。

家の周りには、スモモ、カイドウリンゴ、グミ、ナツメ、カリン等、いろんな果物の木が植えてあり、春には可憐な花を咲かせ、それらの実は私たち兄妹のおやつになった。

「どうして家の周りには、果物の木があんなにあったの?」大人になってから母に聞くと、「あれは、ばあちゃんが植えたんだよ。おまえたちが喜ぶようにね」と。

 

祖父母には子供がなく、実の妹(私の母)が養女になり、そこに同村に住む父が養子に入った。「両養子」というらしい。当時としては珍しい事ではなかった。

住む家が決まったとき、子供好きだった祖母は、やがて生まれるであろう孫たちのために、家の周りのあちこちに果実の木を植えた、ということだ。

知らなかかったよ

 

やがて、木々は実をつける程に育ち、3人の子供たちも育ち、家族7人+犬、猫、時々ヤギまたはチャボらは、つましくも平穏に暮らしていた。

祖母は裁縫が上手で、着物の端切れを利用して、身の回りの細かい小物を作るのが好きだった。

姉と私の雛人形も祖母が工夫して手作りしたものだ。美しい十二一重をまとい、上品なお顔のお内裏様とお雛様は、素朴ながらもよく出来ていた。

私は「お友達の家の五段飾りも豪華だけど、うちのお雛様もなかなか良い」と子供心に誇りに思っていた。何しろ世界に一つしかないお雛様だ。

 

そんな祖母は、不思議な能力を持っている人でもあった。

山菜採りだかキノコ採りだかに行ったついでに、マムシを生け捕りにしてくるのだ。

その手法がすごかった。

山でマムシに出会うと、赤いネット袋を取り出し(玉ねぎなどが入っていたやつ)、地面の上すれすれの所で口を広げて「この中入れ」とマムシに声をかける。するとマムシは、スルスルと自分から袋の中に入っていくのだそうだ。催眠術か?

マムシは我が家の常備薬、マムシ焼酎になり、口内炎やヤケドを治してくれるのだった。ありがとうマムシ

 

祖母は、70歳を過ぎ、孫たちに手がかからなくなった頃から度々、村のお年寄りの家を訪問するようになった。(自分も年寄りなのだけどね)

村のあちこちの集落まで歩いて行き、お年寄りの身の回りの片付けを手伝ったり、繕い物をやってあげたり、お茶飲み話をしたり、、押しかけボランティアである。

「今日は長松(集落の名前)のばあちゃんの床屋をしてあげた。さっぱりしたと喜んでくれたよ」と嬉しそうに話していた。

 

77歳で祖母が亡くなったとき、家の前の道路のあちらこちらに村の人たちが佇み、手を合わせて祖母の棺を送ってくださったのだった。